患者給食の個別対応が実現できるわけ

 病棟勤務の管理栄養士8人は、給食の献立づくり、毎日の食事内容の管理、食材の発注、調乳(新生児向けミルクづくり)、各病棟への配膳、入院患者や外来患者の栄養指導な

ど、毎日大奮闘している。

 

 患者給食は一般病棟とホスピス病棟(23床)合わせて約450食(全607床二分を朝昼晩の3回用意する。一般病棟の患者に対しても献立づくりの内容はきめ細かい。患者給食は一般食と特別治療食に大別され、さらに、年齢別、男女別に摂取量が異なる。一般食のなかでも、患者の容態別に6区分され、ご飯やおかずの柔らかさ(常食、全粥食、5分粥食、5分キザミ食など)が24種類ある。特別治療食では、病気別に23の区分53種類に細分化されている。患者の容態によっては、(1食分の盛り付け量を半分にする)を用意する。

 

 これらの1日1000食を超える食事内容が食事箋という指示書に書き込まれ、毎日、調理場に回される。患者のなかには食材によってアレルギーが出たり、食べてはいけない形状があったりするため細心の注意を払う。

 

 食材には季節感を取り入れる。外出が思い通りにならない患者のために、春になったらタケノコ、夏は(モやアユ、秋はサンマやマツタケ、冬はカブやクリスマスのチキンなど、少し季節を先取りしてお皿に盛りつける。見た目で食欲がわくように、彩りにも気を使う。毎年、2月の節分には恵方巻き(太巻き)、3月のひな祭りにはちらし寿司、5月の端午の節句にはお子様ランチなど、行事に合わせた食事も用意する。

 

 これだけ細かく個別対応できるのは、給食に「直営方式」を導入しているからだ。管理栄養士だけでなく、食事に関わるスタッフは調理師も洗い場も、すべて病院職員として採用されている。2007年現在、本館・別館2棟のそれぞれに調理場が設置され、2棟分で調理師25人(調理助手を含む)、洗い場のスタッフが朝夕各8人が給食づくりに関わる。

 

 さらに、淀川キリスト教病院の場合、院内のどの部門も独立採算制を取っている。栄養管理課の食材費や人件費などの予算の使途、食材の入札権限や発注、人事の採用権などは管理職が権限をになう。イベントメニューの予算は、これまで国の補助金と通常の給食徴収費を少しやり繰りしながらI食あたり最大700円上乗せして予算を組む。

 

 だが、2006年4月からの健康保険法の改正で、国からの補助金(入院患者I人当たり200円)が廃止になった。さらにこれまでは1食でも1日分の給食費を患者から徴収できたが、1食分ずつ加算されるしくみになり、給食にかけられる総予算はますます厳しくなった。が、林さんは「ホスピスの理念を守るためにも、イベントメニューは続けます」と言う。

 

 一方、給食に「委託方式」を導入する医療機関も多い。委託方式は、①病院の給食施設にスタッフを派遣してもらうタイプ、②給食センターで調理された膳を配送してもらうタイプ、の2種類に大別される。患者給食を民間会社に委託している医療機関は、医療関連サービス振興会の全国調査(2003年)によると、令国で53・8%という。

 

 委託方式の場合は直営方式のような個別対応が難しいケースもある。

 

 ところで、②を導入している施設の場合、給食センターが献立までつくってしまうと、管理栄養士は「自分の力を発揮できない」と悩んでしまうという。林さんはそんな相談を受けたときはこうアドバイスしている。

 

 「対外的には、委託先に病院のケアの理念を話してその考えに沿った食事を出してもらうよう調整するという仕事があります。院内の仕事ではベッドサイドに訪問して、患者さんがどんなものが好きか、食べたいのか、食べられるのか探り当てたり、食欲が低下しているときは量を2分のI、3分の1に減らして、食べられたという満足感を得てもらったりするといい。仕事は考えれば考えるほど、アイデアが生まれますよ」

『がん闘病とコメディカル』福原麻希著より 定価780円