眠れない、食べられない

 

 気持ちが落ち込んだら誰でも眠れなくなる、食欲がなくなる。共感できる症状かもしれない。しかし、うつ病の症状としての不眠や食欲低下がそれと同類のものかどうかはわからない。特に睡眠については、うつ病に特有な症状として早朝覚醒というものがある。寝つきはある程度いいのだが、朝の三時や四時に目が覚めてしまい、その後眠れないという症状である。

 

 これにおそらく関係する症状として、気分の日内変動というものもある。朝や午前中の気分がすぐれず、夕方から夜にかけてよくなってくるというものである。これは早朝覚醒とあわせて、バイオリズムの変調とみなすことができる。

 

 また、やや専門的になるが、うつ病睡眠障害は、レム睡眠の異常であることがわかっている。人間の睡眠には、レム睡眠とノンレム睡眠の二種類がある。この二つは脳波をはじめとする生理的状態が違う。たとえば、夢を見るのはレム睡眠の時である。人間は一晩眠る間に、レム睡眠とノンレム睡眠を何回も繰り返しているが、うつ病ではレム睡眠の出るタイミングが異常になっているのである。睡眠を調節するのは、脳幹という、脳のかなり奥の部分である。食欲中枢も深いところにある。おそらくはうつ病を引き起こす脳の部位の変調と、睡眠や食欲を損なう脳の部位の変調は連動しているのであろう。

擬態うつ病林公一著より