本物と擬態の違い

 

 最後は直観で診断するということは、裏を返せば、うつ病でなくてもうつ病に似た症状が出ることはよくあるということである。ホルモンの異常や、膠原病と呼ばれるまれな病気、認知症の始まりや統合失調症でも、また、その他の脳の病気でも、うつ病にかなりよく似た症状が出ることがある。症状が似ていて治療法が違うという点では、こうした病気も擬態うつ病に含まれる。ただしこの場含は、本物のうつ病と区別するのは百ハーセント医者の仕事である。本書のテーマである擬態うつ病は、脳の病気ではない落ち込みを指している。擬態うつ病は、必ずしも医学的な治療の必要はない。けれども重い場含や、こじらせた場合は、本物のうつ病に準じた医学的治療が必要になることもある。こういう意味では、擬態うつ病の方が、「こころの風邪」と呼ばれるのにふさわしい。最近増えているのも、本物のうつ病ではなく、擬態うつ病の方であると私は考えている。

 

 擬態うつ病を本物のうつ病と区別するのに、単純明快な方法は残念ながらない。結局は質の違いで判断するというのが現実的である。しかしそれでは解説としては試合放棄のようなものなので、ある程度は無理を承知で、鑑別点をあげてみたい。自分がうつ病かどうか判断したい場合と、自分以外の人がうつ病かどうか判断したい場合とでは鑑別点は微妙に違ってくるので、別々にあげることにする。

擬態うつ病林公一著より