退院後の食事のアドバイス

 管理栄養士は退院後の日常の食事や栄養管理について、患者や家族に指導することもある。とくに、「退院後の食事のつくり方」を教えてほしいと質問されることは多い。病院のような食事は手間がかかってとてもできないと思いがちだが、林さんは「大丈夫です。工夫すれば家庭でもつくれます」と言う。

 

 たとえば、一番よく聞かれるとろみ食については、▽りんごのすりおろしなどを含めて離乳食を使うと簡単、▽魚をすりつぶすと臭みが出るので、はんぺんをミキサーにかけるといい、▽ケチャップは香辛料が強いのでトマトピューレを使う、などアドバイスする。さらに、相談を多く受けるという症状別の食事をアドバイスしてもらった。

 

  • 食欲不振の場合

 ・のどごしのよい麺類(冷麺・あたたかいそうめん、そばブフどん)やあっさりした和食などシンプルな献立が好まれる。

 ・温泉卵(のどごしがいいので、卵豆腐より人気)、冷ややっこ、スープ類(ポタージュ、コンソメ、野菜入りスープなど)も食、べやすい。

 ・果物・ゼリー・アイスクリームなど、甘いものは人気。

 ・少量で栄養がとれる経口の濃厚流動食(商品名テルミールやブイークいス匸ノイッカルー

 プラスなど)もお勧め。病院の売店やインターネットなどで購入できる。

 なお、栄養素の中でも、亜鉛不足は味覚異常を起こし食欲の低下につながる。

口内炎がある場合

 ・固い食べ物は避ける。たとえば、肉類はホワイトシチューなどをつくって柔らかく

 煮てしまう。ただし、カレーや辛子など刺激になる味付けは適さない。

 ・魚類は煮魚、焼き魚、魚すきが好まれる。ただし、ボン酢は避ける。

 ・酢の物や味の濃いもの、辛いものは避ける。薄味が好まれる。

 ・果物では、みかんやグレープフルーツなど酸味の強い柑橘類、熟したメロン、パイ

 ナップルなどは刺激が強いので避ける。フルーツゼリーなどが食べやすい。

 ・なめらかな卵豆腐、温泉卵、そうめん類などは好まれる。

 なお、食事の温度は熱すぎるものも冷たすぎるものも避ける。常温が食べやすい。

③嘔吐・吐き気がある場合(化学療法の副作用によって起こりやすい)

 こ薄味や冷たくて囗当たりの良い食べ物が好まれる。たとえば、プリン、ヨーダ

 ト、温泉卵、冷やしそうめん、果物、ジュース、フルーツゼリー、シャーベットなど。

 ・1品の食事量を2分のI、3分の1に減らして、食器も小さいものに盛りつけると

 満足感が得られる。少しずつ品数が多い方が食べ物を選ぶ楽しみも加わる。

 ・においの強いもの(納豆、ニンニクド不ギなど)は避ける。

 ・水分の多いもの、一口大の氷片なども吐き気を抑える効果がある。

 において吐き気が起こりやすいため、火を通しかものは常温で食卓に載せるとよい。

④味覚異常のある場合(化学療法や放射線療法による副作用によって起こりやすい)

 ・塩味を苦く感じる場合は醤油や塩分を控えて、だしや酢、風味(ゆずやごま油)など

 の素材を生かした献立にするとよい。

 ・甘味を感じやすいときは砂糖やみりんなどを使った煮物は避けて、お浸しやサラダ

 などを。酢の物はポン酢などを利用するとよい。

  なお、味覚異常のときは味の濃い食べ物が好まれる。たとえば、お好み焼き、たこ

 焼き、焼きそば、菓子パンなど。味噌汁やスープなどで味を濃くするのもよい。冷や

 しそうめん、アイスクリームも人気。

⑤腸閉塞のおそれがあるとき

 ・食物繊維の少ない食品(ヨーグルトも好まれる)や、少量で栄養のある濃厚流動食を

 活用するとよい。

 このほか、患者は体調の良いときに食べたい物だけをほしがることが多い。その工夫

として、次のようにアドバイスする。

 「プリンやシャーベット、アイスクリームなどを冷蔵庫や冷凍庫に常備しておくとよい

でしょう。料理はレトルト食品などを利用して、上手に組み合せると便利です。さら

に、患者さんは部屋に閉じこもりがちになるので、気分を変えるためお弁当を持って外

に散歩に出ることもお勧めします」

『がん闘病とコメディカル』福原麻希著より 定価780円