不明瞭な発音はリハビリで改善できる

 「新聞、取って」

 

 生活の中のそんな何気ない言葉が、もし突然、うまく発音できなくなったら……。

 

 言語聴覚士の熊倉勇美さんは言う。

 

 「コミュニケーションの手段には、言葉を話すほかにも筆談、ジェスチャー、指差し、目で合図するなどがありますが、どの方法でも思い通りに意思を伝えることは難しい。自分の気持ちをうまく表現できないということは、非常にストレスを感じるものです」

 

 囗腔がん(舌、口腔底、歯肉で硬口蓋、頬粘膜などにできるがん)や中咽頭がん(囗の奥にある軟口蓋、扁桃、舌根などにできるがん)では、手術で舌の一部、下あご、軟口蓋(上あごの奥のやわらかい部分など)を切除することかおり、切除する場所や範囲によっては発音に障害が残る。放射線治療後も、照射した部分に炎症や痛み、むくみが起こったり、唾液腺や舌が萎縮したりするなどして同じような後遺症を残すことがある。

 

 「しかし、失われた機能があっても、残された能力を訓練で引き出せば、日常生活の不自由さを軽くすることはできます」

 

 言語聴覚士は患者の発音を丁寧にチェックして、どうしたら解決できるか専門的にアドバイスしてくれる。

 

 どのようにリ(ビリするのか。熊倉さんから発音訓練の例を紹介してもらった。

 

 20代の学生A子さんは5年前、舌の表面に小豆大の白斑ができた。痛みがなかったので放置していたが、辛味や酸味のある食事をすると、しみるような感じがした。歯の治療のとき歯科医に相談したら、「口内炎でしょう」と言われて塗り薬をもらったが数力月経っても、それは治らなかった。

 半年後のある日、白い腫れが舌の側面や舌先まで広かっていることに気づいた。すぐに大学病院の耳鼻咽喉科で診てもらい、詳しい検査を受けたところ、「2センチの舌がん」と診断された。早期の場合、放射線療法の一種の小線源治療(放射線発生源を密封しか針を病巣部に刺す治療を受けることができれば発音障害は残らない。A子さんもその治療を希望したが小線源治療ができる医師が地元で見つからず、主治医と相談して舌の一部を部分切除した。

 

 退院後、発話機能に後遺症が残った。A子さんがはっきり言葉を発音できないので、相手は十分聞き取れない。まるで、飴玉を頬張っているような話し方になってしまう。A子さんには「英語を習得して、外資系企業で働きたい」という希望がめったため思い悩み、手術した病院で相談した。が、主治医は「大丈夫です。十分コミュニケーションは取れていますよ」と言うばかりで、アドバイスはなかった。

 

 A子さんがインターネットでいろいろ調べたところ二言語聴覚士が術後の発音を矯正してくれることを知り、熊倉さんを訪ねた。初診で熊倉さんはA子さんの悩みや困っていることを聞き、さらに、分析したところ、とくに、ダ行の発音がサ行やハ行に聞こえて、うまく伝わらないことがわかった。しかし、

 

 「舌の部分切除の場合は、数力月訓練すれば、はぼ100%よくなりますよ」

 

 という熊倉さんの一言でA子さんは希望を持つことができ、片道1時間かけて、週1同40分間のリハビリに通うことになった。

 

 毎回の訓練では鏡を見ながら、舌、くちびる、あごを前後・左右・上下に動かし、うまく発音できたときのスピードや位置を確認して覚えた。テープに声を録音して聞きながら練習した。さらに、会話中、自然仁舌を動かせるように「たまご」「あたま」と、単譜のどの位置に夕行がきても言えるよう、何度も繰り返した。

 

 その結果、A子さんは半年後に発音の障害を完全に克服でき、いまは念願の外資系企業で働いている。